母は、もともと人見知りだった。
人と接する仕事は苦手で、
仕事から帰るとよく職場の愚痴を聞かされた。
田舎あるあるで、近所の悪口も多かった。
「人付き合いは疲れる」
そんな言葉を何度も聞いてきた。
独り身になってからの変化
けれど、父が亡くなり、
子供たちが巣立ち、ひとり暮らしになってから少し変わった。
電話をすると、その日あった出来事をよく話してくれた。
スーパーでのこと、近所の人との立ち話。
人と接することが、
「疲れる」から「安心」に変わっていったようだった。
知らない土地での孤独
そして腰を悪くし、
介護のためとはいえ知らない土地へ連れてこられた。
あの頃の母は、つらそうだった。
数日おきに電話が鳴る。
「もう死んだ方がまし!」
その言葉に、僕たち兄妹は何度も揺れた。
妹は近くに住んでいるが、
シングルマザーで忙しい。
僕は車で2時間かけて通う。
正直、介護疲れも出始めていた。
デイサービスという転機
そんな頃、妹が言った。
「デイサービス、使ってみよう」
最初、母は嫌がった。
知らない人の中に入るのが不安だったのだろう。
けれど通い始めると、少しずつ変わっていった。
同年代の人たち。
優しく接してくれるスタッフ。
母はまた、笑うようになった。
もう一度、世界へ
気持ちが明るくなると、行動も変わる。
自ら外に出ようとし、
周りの人に積極的に話しかけ、
楽しそうに日々を過ごしている。
最近では、バスで出かけた話を誇らしげにしてくれる。
あれほど人付き合いが苦手だった母が、
今は人とのつながりを楽しんでいる。
老いは、縮小ではなかった。
環境が変われば、人はまた開く。
時間がかかっても、もう一度ひらくことができる。
たまに無茶していないか心配にはなる。
けれど、本人が楽しそうなら、それでいい。
喫茶店でコーヒーを飲みながら思う。
整えるとは、
閉じることではなく、
もう一度ひらく余白を残しておくことなのかもしれない。

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